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医療

消化管手術患者の周術期管理における合併症の軽減と長期予後の改善

松井 亮太 助教 マツイ リョウタ
所属
金沢大学 消化管外科
研究分野
消化器外科学
キーワード
サルコペニア、低栄養、筋肉量、術後合併症、化学療法、長期予後

 高齢化に伴い、サルコペニアや低栄養を有する患者の割合が増加してきている。これらは術後合併症のリスク因子であるだけでなく、長期予後を不良にする因子であることが明らかになっている。しかしサルコペニアや低栄養への術前介入による術後合併症の軽減効果、長期予後の延長効果については十分に検討されてこなかった。申請者はこれらの課題に対して後ろ向き研究にて多数の検討を行ってきた。現在、介入を伴う多施設共同前向き試験を計画しており、これらの介入効果を明らかにする予定である。
 術後高炎症はがん微小残存病変の発育刺激・組織接着の原因となることから、長期予後不良の因子として注目されている。申請者は抗炎症薬を術後早期から使用することでこれらを抑制し、がん再発が減少することを明らかにした。その効果はより進行している患者ほど有意であった。抗炎症効果は薬剤だけでなく、免疫栄養剤と呼ばれる栄養剤でも効果を発揮するため、これらを組み合わせた多施設共同前向き試験を計画している。本寄付金はこれらの臨床研究の遂行に充当する。


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松井 亮太 助教 マツイ リョウタ
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研究内容

サルコペニアに対する介入:術前運動と栄養介入

 患者の高齢化が進む日本では,要介護となる疾患要因としてフレイルの比率が高まってきています。身体的フレイルの一つとしてサルコペニアが注目されています。サルコペニアは加齢もしくは二次性に起こる全身の筋肉量減少と,それに伴う筋力低下,身体機能低下と定義され,要介護の原因となるだけでなく,外科治療のアウトカム不良に関わることが報告されています。高齢者においてはサルコペニアの有病率は約40%と報告されており,患者の高齢化が進む近年において対策が急務となっています。
 
 術前サルコペニアは術後合併症を増加させ,長期予後を不良にすることが明らかとなっています。術後合併症の発生は,長期予後を不良にするため,術後合併症を軽減する対策が求められますが,これまでサルコペニアへの介入研究は国内外でほとんど実施されておりません。本プロジェクトでは,サルコペニアを有する消化管がん患者に対して,術前運動・栄養の介入を行い,その効果を『術後合併症が軽減できるか』を明らかにすることを目的として実施します。

低栄養に対する介入:栄養介入による”栄養改善”を判断するための基準作成

 これまで低栄養の診断基準が各国で異なることが問題となっていました。2019年に世界共通の低栄養診断基準である”GLIM基準”が発表され,現在は世界で共通した指標で低栄養診断が行われるようになってきています。私はGLIM基準で定義する低栄養が術後合併症を増加させ,長期予後を不良にすることを明らかにしてきました。よって現在では,GLIM基準を基にして栄養介入の対象を決定しています。

 低栄養と診断した場合には,栄養介入を行うことがガイドラインで推奨されています。ガイドラインでは介入を要する”日数”については言及されていますが,栄養介入後に合併症が減少する”基準”については明らかにされていません。これまで日本では栄養介入後にrapid turnover proteinを用いた栄養評価を行ってきました。Rapid turnover proteinは血中半減期が短く,栄養状態の変化を短期間で反映する指標として用いられています。Rapid turnover proteinとして”プレアルブミン”,”トランスフェリン”,”レチノール結合蛋白”の3つが日常臨床で用いられていますが,私はプレアルブミン低値が術後合併症や長期予後と密接に関わっていることを明らかにしてきました。しかし”合併症減少”の判断となるこれらのカットオフ値はこれまで十分に検討されていないのが現状です。低栄養の重症度によっては介入期間が異なる可能性があり,rapid turnover proteinの変化率と術後アウトカムとの関連を明らかにできれば,栄養介入日数の目安が低栄養の重症度ごとに決定できる可能性があります。これらは『個別化』を目指した周術期管理へと発展する可能性があります。

 本プロジェクトでは,GLIM基準で定義する”中等度低栄養”と”重度低栄養”の患者に対する『栄養改善の指標』をrapid turnover proteinの変化率を基にして作成することを目的としています。この研究成果は今後の『栄養改善』の指標となり,消化器がんだけでなく,他の領域でも応用できる重要な基準となる可能性があります。

術後炎症に対する介入:抗炎症作用による”がん再発抑制”効果

 近年,術後炎症が高度になるほどがん再発までの期間が短くなることが注目されています。これは術後に存在する微小残存病変が炎症による刺激で増殖し,周りの組織へ接着することでがんの再発が生じ,増幅してくることが機序として考えられています。私はこれまで術後炎症の指標となるC反応性蛋白(C-reactive protein: CRP)が高いと長期予後が不良となることを明らかにし,術後早期に”抗炎症薬”を使用すると長期的ながん再発が減少することを明らかにしてきました。その治療効果についてはがんが”進行”しているほど効果が高いことが明らかになっています。現在の治療では,術後補助化学療法(いわゆる抗がん剤)による再発予防が標準治療とされていますが,それでも進行がんに対する再発抑制効果は十分とは言えず,対策が必要とされています。この抗炎症薬の効果は進行がんほど強く発現するため,術後補助化学療法と併用した対策が有効と考えられます。抗炎症効果があるものとして『抗炎症薬』の他に,特定の栄養成分を含む『免疫栄養剤』が挙げられます。特に免疫栄養剤は抗炎症効果だけでなく,栄養改善に対するアプローチとしても有効であり,多方面に対する効果が期待されます。

 本プロジェクトでは,術後高炎症の消化管がん患者に対し,抗炎症効果を強化した『抗炎症薬』と『免疫栄養剤』の併用が術後のがん再発を長期的に抑制できるかを明らかにするものです。本プロジェクトにより,術後補助化学療法だけでは再発予防効果が十分でない,より進行した患者さんに対する治療選択肢を提供できる可能性があります。