研究内容
ゼブラフィッシュ視神経損傷後の修復カスケードの分子機構の解明と、哺乳類への応用
1,あなたが研究を通して成し遂げたいことはなんですか?
魚類は、我々ヒトを含む哺乳類とは大きく異なる中枢神経の特長があります。それは、自ら再生する優れた再生・治癒能力です。この性質により、魚類は視神経や脊髄に損傷を受けても、細胞を保護する作用が強く働きます。やがて、再生した神経は軸索を伸長させ、機能的にも元のように完全に回復することが認められます。
魚類の中枢神経は、なぜ損傷後も再生が可能なのか。
私は、このような再生機構がどのように起こるのかを探求するため、ゼブラフィッシュ(小型の熱帯魚)をモデル動物に使用し、その視神経を損傷させる実験系を構築してきました。
魚類の中枢神経軸索再生に関与する分子に着目し、その特定と生理的作用の解明を目指しています。
それは、我々ヒトの中枢神経再生を可能とする基礎研究となります。そして、この研究が進めば、ヒトの脊髄損傷など,中枢神経軸索損傷に対して,治療効果の期待できる分子の解明につながると考えております。
2.どのようなアプローチで実現しようとしていますか?
ゼブラフィッシュは、全遺伝子の解析が完了している数少ない実験動物の一つです。既存の遺伝子データベースを最大限に活用できるという利点があります。さらに、熱帯魚として年間通して産卵が可能で、遺伝子導入などの操作に適していることから、費用対効果の高い実験系として注目されています。
また、魚類の視覚系は、網膜・視神経・視蓋から構成され、中枢神経軸索再生のモデルとして広く研究されているため、蓄積された豊富な基礎データがあるという大きな利点もあります。
本研究では、実験的にゼブラフィッシュの視神経を損傷させた後に、発現が上昇する再生関連分子を遺伝子レベルで解析します。さらにその機能を明らかにするために、遺伝子ノックアウト技術を用いた検証も進めています。
3.あなたが取り組む研究課題はなんですか?
魚類の視神経損傷後に、最初に誘導される分子群が、再生・修復に至るカスケード反応で果たす役割の解明を目指しています。特に、損傷後24時間以内の急性期に発現・活性化される分子が、どのような生理機能を通じて、再生を誘導するかに着目しています。
これまでの研究から、視神経損傷を受けたゼブラフィッシュ網膜は、細胞の生存に不可欠とされる抗アポトーシス分子が発現するという結果が出ています。加えて、山中伸弥先生によって発見されたiPS細胞の誘導に必要な4つの転写因子(いわゆる山中因子)が、自然に発現することが明らかとなってきました。
これらの因子は、細胞の生存維持のみならず、一時的な幹細胞化を介して新たな視神経の再生に寄与する可能性が、これまでの研究で示唆されています。
今後は、これらの分子間の相互作用を明らかにするとともに、視神経再生を誘導する分子カスケードの全体像を解明することを目指しています。
4.研究費サポートのお願い
本研究は、ゼブラフィッシュ(小型の熱帯魚)の視神経が損傷を受けた後に、最初に働き始める分子が、神経の修復や再生にどのように関わっているのかを探求するものです。
特に、損傷を受けてから1日以内に現れる「細胞生存」に関与する分子や、「細胞を若返らせる働きのある因子(幹細胞化)」に注目し、それらがどのように連携して神経の再生を助けるのかを明らかにしようとしています。
この研究は、我々ヒトの中枢神経再生を可能とする基礎研究となります。進展すれば、ヒトの脊髄損傷など中枢神経軸索損傷に対して,治療効果の期待できる分子の解明につながると考えます。
将来の治療法開発につながる重要な基礎研究となります。どうか、みなさまの温かいご支援を、心よりお願い申し上げます。