研究内容
地磁気の記録をたどり、生命に満ちあふれる地球の不思議に迫る。
地球に暮らす私たちのまわりには、目には見えないさまざまな力が存在しています。地磁気はそのひとつです。臼井洋一准教授は、岩石や堆積物などに残された地磁気の記録を解析することで、過去のさまざまな地球変動を解明し、地磁気とともに生きてきた地球生命への理解を深める研究に取り組んでいます。

地球生命と地磁気
私は地磁気の研究を通じて、地球のダイナミックな活動を理解することに取り組んでいます。
方位磁石が常に北を示すことから分かるように、地球にはN極(南極)とS極(北極)があり、地球の周りには巨大な磁場ができています。この磁場を地磁気と呼びます。地球の中心部には高温の液体鉄の対流があり、その流れが電流を生み出して地磁気を発生させていることがわかっていますが、地磁気の成因はとても複雑で、すべてが解明されているわけではありません。内部の対流が失われた火星や月には、地磁気はありません。地磁気は大気があり、海洋があり、生命に満ちあふれている地球ならではの現象だと言えるでしょう。
地球変動を記録する岩石
地磁気は太陽が放出する高エネルギー粒子から地球を保護したり、地球表面に大気をつなぎとめたり、水を保持したりと、重要な役割を果たしています。古くから航海などで方角を知るのに利用されてきたことから、地磁気は一定、不変というイメージがあるかもしれませんが、実はN極とS極は長い地球の歴史の中で何度も逆転を繰り返しています。地磁気は、地球内部の対流や、地殻変動、太陽活動の影響によって、さまざまな周期で常に変化し続けているのです。
こうした過去の地磁気の情報を、天然のハードディスクとして記録しているのが岩石です。岩石には磁石の性質を持ったマイクロスケールの鉱物が含まれており、岩石が生成される時の地球の磁場の影響を受けて、その方向に磁気の向きが固定されます。この向きをさまざまな手法で解析することで、その時代の地磁気の有無、地磁気の強さ・弱さ、地球の磁場方向などを明らかにできます。地磁気が逆転した時代があったこと、あるいはその場所で過去に大規模な地殻変動があったことも、これらの岩石が教えてくれます。

地道な分析と、自由な発想
私たちの研究は、世界各地に赴き、ドリルやハンマーを使って試料を採取することから始まります。海底に堆積した地層から、連続的な記録をたどる試料を採取することもあります。野外で切り出したり、取り出したりした試料には、現在の方位をきちんと記録しておく必要があります。試料に含まれている地磁気の情報は、研究室に持ち帰って一つひとつ計測することで初めて見える化でき、新たな知見が得られます。地道な研究です。
地磁気はいつからあるのか、という問いはこの分野の大きなテーマですが、私はこれまでの調査・研究で、34億年前の岩石に地磁気があった記録を発見しました。一見すると、地磁気は過去から現在に至るまで常に存在し続けているように見えますが、地磁気が存在しなかった時期がある可能性も否定できません。今後、詳細に調べていきたいと考えています。最近は地磁気と生命の関わりを探るという切り口で、海底に生息し、体内で磁石を作るバクテリア(磁性細菌)も研究の対象としています。研究のすそ野はどんどん広がっています。
