研究内容
温暖化の先にある地球の姿は?海底に眠る化石から地球気候の過去と未来を知る。
地球温暖化が進むとどんな変化が起こり得るのか―。人間活動に伴う気候変化を正しく評価するためには、地球が元来持つ変動リズムやそのメカニズムを理解する必要があります。佐川拓也准教授は、海底に堆積したプランクトンの化石から、過去に地球が経験した気候変動への理解を進めています。

地球の過去を明らかにし、未来を考える
人類が出現する以前の地球では、日本でも氷河が発達するような寒冷な時代、今より温暖な時代と、数万年周期で激しい気候変動が起こっていました。約1万年前からは平均気温があまり変わらない時代が続き、地球史上例外的に安定した、恵まれた環境で人類が発展しました。ところが直近の100年を見ると、人間の活動によって温室効果ガスの大気中濃度が急激に上昇しています。私たちは今、これまで経験したことのないスピードで温暖化に直面しているのです。
将来の気候変動予測にあたっては、気候モデルによるシミュレーションが活発に行われていますが、未来を計算することには不確かさが伴います。一方で、過去の気候がどのような状態だったかを調べ、これを気候モデルによって再現できれば、シミュレーションの信頼性を高めることにつながります。過去に起きた気候変動を調べることは、将来の気候変動を予測する上で非常に重要なのです。
過去の環境や気候を物語る化石
私は、海底からプランクトン(有孔虫)の化石を含む地層を取り出し、その化学組成を分析して、過去から現在にかけて起こった海洋環境の変化を読み取る研究を行っています。
浮遊性有孔虫は1mm程度の単細胞生物で、海中を浮遊して生活し、死ぬと海の底へとゆっくり沈んで堆積し、化石として保存されます。有孔虫の殻は炭酸カルシウム(CaCO3)からできていますが、殻を作る際、水温、塩分、酸素濃度、pHなどの海水の条件によって、他の元素をわずかに取り込んだり、海水の酸素同位体比を反映したりするため、その化学組成が当時の海洋環境や気候を調べる有効な手がかりになります。
たとえば、現在の日本海は多様な海の幸をもたらしてくれる豊かな海ですが、約2万年前の寒冷な時代は、海水準が低下して閉ざされた環境になり、多くの生物が死滅するほど酸素が枯渇していたことが、深海の地層の研究により明らかになっています。

気候変動予測に貢献
研究船に乗り込んで日本近海を中心に太平洋、赤道周辺、ベーリング海などさまざまな目的地を訪れ、船上からパイプを突き刺して海底の地層を採取し、ラボに持ち帰って分析を進める、というのが私の研究の流れです。国際プロジェクトに参加し、海外の研究者と共同研究も進めています。私たちの研究成果は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が議論する際の根拠のひとつとなっており、実際に気候変動予測に役立てられています。
これまでは、大気中のCO2濃度が現在と同程度である300万年前を主な研究対象としてきましたが、未来の地球の姿を予測するためには、もっと温暖な時代と比較する必要があります。そのため今後は、1600~1700万年前、今より大気中のCO2濃度が高かった時代に焦点を当てて研究を進めていきます。太平洋のど真ん中、手つかずの海底の地層を採取し、まだ誰も知らない発見をしたいとも考えています。
