研究内容
岩石を求めて世界へ、海の底へ、地球の内部へ―。めざすは人類初のマントル直接採取!
岩石学を専門とし、マントルなど地球深部に由来する岩石を分析、観察し、地球史の解明に取り組んでいる森下知晃教授。世界各地を調査し国際的なマントル掘削プロジェクトを牽引する一方で、足元にある岩石や地質から、日本海と白山に挟まれた石川県のアイデンティティに迫る知見を提供しています。

「石が好き」を仕事に
子どもの頃から「石」が好きで、河原に行っては面白い岩石を観察し、ワクワクしていました。ちょっと変かもしれませんが、単純に好きというより恋愛感情に近いかもしれません(笑)。
学生時代は岩石を求めて野外調査に積極的に取り組み、今は世界の研究者とともに海洋調査船に乗り込んで調査やサンプリングを行っています。岩石学の研究者として、純粋に“好き”を仕事にできたのはとても幸運なことだと思っています。
岩石が持つ履歴を読み解く
地球の構造は卵に似ています。外側の殻が「地殻」、中心の黄身にあたるのが「核」、その間の白身にあたる部分が「マントル」です。マントルは岩石で、地殻とは異なる物質でできていると考えられ、地球の体積の約80%を占めます。
地殻の上で生きている私たちが入手できる岩石は、地殻のほか、大地の営みによりたまたま地表に顔を出したマントルのかけらがあります。これらの岩石にはさまざまな履歴が刻まれており、観察や機器分析を行うことで、地球内部の情報を読み取ることができます。

地球はなぜ地球になったのか
地球の表面は、複数枚の硬い板状の岩盤(プレート)に覆われています。近年は、地震や火山活動などの現象をプレートの運動で説明する「プレートテクトニクス」という概念が導入されています。太陽系の惑星の中でプレートテクトニクスがあるのは地球だけで、このしくみが機能しているからこそ水がうまく循環し、地球は地球になったと考えられています。しかしプレートテクトニクスが地球の歴史の中でいつ、どのように始まったのか、プレートは何でできているのか、なぜ動くのかというと、間接的には分かっていますが、直接的な証拠は得られていません。
プレートテクトニクスを理解するためには、プレートを知る必要があります。その直接的な方法は、海底下6キロメートルまで掘り進み、マントルを採取することです。実は、私たち人間は地表に顔を出したマントルは見たことはあっても、“生”のマントルを見たことはまだありません。38万キロメートル彼方にある月に行きサンプルを採取した人類も、深さわずか6キロメートルのマントルにはいまだ到達できていないのです。

海底下6キロメートル、誰も見たことがない世界へ
私が20年前から「人類初のマントル直接採取」を目標に掲げ、さまざまな研究や働きかけを行っています。具体的には国内外の多くの大学や研究機関とコミュニティを形成し、日本の地球深部探査船「ちきゅう」によるマントル掘削に向けた研究や計画の立案を行っています。
マントルは40億年の地球の歴史がつくりあげたものです。「こんなことに役立つ」「こんないいことがある」といった、分かりやすい社会貢献を示すことはできないかもしれませんが、マントルを直接採取することは、科学史の最も根源的な謎である地球や生命の成り立ちと進化を理解し、未来を知ることにもつながります。
足元に目を向けよう
私たちの研究は壮大な時間・空間スケールで地球を理解しようというものですが、同時に地域に目を向けるきっかけにもなります。白山手取川ジオパークを擁する石川県の岩石や地質は、この地域の暮らしや文化的背景のもととなっており、なぜ日本海や白山ができたのか、なぜ石川で雪が多いのか、なぜ九谷焼が生まれたのか、なぜ魚や酒が美味しいのか…といったことすべてに結びついています。世界各地を見てきたからこそ、この土地の特徴や面白さがよく分かります。
宇宙を見上げる研究が注目される一方、地球の深部に視線を落とす研究には、関心も資金も集まりにくいのが現状です。しかし岩石という、まさに“足元”にあるものに対する知識や意識は、地球、あるいは自分のルーツを知るうえで欠かすことのできないものだと信じています。
