研究内容
体内時計中枢や睡眠覚醒調節の脳内メカニズムを解明
体内時計により生み出される概日(サーカディアン)リズムは、睡眠だけでなく、私たちのほぼすべての生体機能を調節しています。現代社会では、夜間勤務や生活習慣の乱れなどにより、体内時計の変調は誰にでも起こりやすく、それが睡眠障害のみならず、さまざまな疾患・健康障害のリスクを増大させています。私たちは体内時計や睡眠調節の神経メカニズムの全貌を明らかにし、これらを意図的に制御・調整する技術の開発につなげることを目指しています。
脳に魅せられる、研究者としての原点
学生時代、生理学や心理学の授業を通して、神経細胞の性質や脳が担う高次機能に触れたときに、非常に興奮しました。それ以来私は、分子生物学、発生生物学、神経生理学など幅広いアプローチ方法を学び、脳に関する研究に一貫して取り組んできました。
この十数年は、これらの経験をもとにマウスの遺伝子操作技術を駆使して、脳内に張り巡らされた神経ネットワークの機能を明らかにする研究に取り組んでいます。
時計遺伝子の発見により、細胞内には約24時間周期を刻む分子メカニズム(細胞時計)が存在することがわかってきました。細胞時計は体中のほぼ全ての細胞が持っているものの、精度が高くなく、細胞ごとに周期長に数時間のばらつきがあります。
それでも私たちの身体は、睡眠や生体機能などをほぼ24時間周期で維持する概日リズムを生成します。末梢細胞と共通の細胞内の時計遺伝子メカニズムのみで、中枢時計機能を実現することは不可能で、視交叉上核内の神経ネットワークが中枢時計の本質と考えられています。
私たちはこの視交叉上核の神経メカニズムの解明に取り組んでおり、現在その基本モデルの提唱に取り組んでいます。視交叉上核は非常に小さな脳領域ですが、多様な神経細胞種で構築されている緻密な神経ネットワークであり、とてもミステリアスで魅力的な研究対象です。
現代社会における健康問題を科学的に解明
概日リズムや睡眠の調節メカニズムは、ヒトとその他の哺乳動物に多くの共通点があります。私たちはその特性を活かし、マウスを用いて基礎的な神経科学・神経生理学の観点から、脳がどのように体内時計を調整しているのかを研究しています。
その仕組みを理解することは、さまざまな疾患モデルにおける体内時計変調の病態生理や、体内時計を自在に操作・整調するための新たな創薬標的分子・細胞等の同定につながると考えています。
私たちは「24時間365日動き続ける社会」が抱える健康に対する問題を科学的に明らかにし、より良い対処法や治療法につなげることを目指しています。そして、健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。
新しい発見の瞬間こそが、研究の原動力
研究室のメンバーと力を合わせ、独自に開発した研究ツールを駆使して、新しい科学的発見を得られたときの興奮こそが、研究の醍醐味です。
自由に行動しているマウスの生体内(in vivo)で、中枢時計やその他の神経ネットワークの活動を、数週間にわたり長期間記録・操作できる実験系は、世界的に見ても当研究室がトップクラスであると自負しています。
そのような環境の中で、同じ志を持つ仲間とともに、日々挑戦を続けています。
体内時計のしくみ・働き・乱れを解明する
私たちは、下記のような研究課題や、それに付随・派生する研究に取り組んでいます。
■中枢概日時計の神経ネットワークメカニズムの解明
視床下部視交叉上核に存在する体内時計中枢が、強固で安定したサーカディアンリズムを発振する神経メカニズムの解明を目指しています。特定の種類の神経細胞のみで、遺伝子操作や神経活動操作をしたマウスを駆使し、研究を進めています。
■中枢概日時計が睡眠覚醒やその他の様々な脳機能を調節するメカニズムの解明
視交叉上核の体内時計中枢が、睡眠・覚醒、行動、摂食、自律機能などを、どのような神経経路や分子によって制御されているのかを、明らかにすることを目指しています。光遺伝学・化学遺伝学的手法による神経活動の人為的操作、組換えウィルスベクターを用いた神経回路トレーシング、遺伝子発現プロファイリングなどの手法を用いています。
■中枢概日時計の乱れによる疾患の理解とその改善方法の開発
体内時計中枢を人為的に撹乱することで、睡眠や行動、生体機能にどのような問題が生じるのかを、明らかにします。さらに、その乱れを正すために、中枢概日時計を自由自在に操作できる技術の開発を目指します。
私たちの研究は、健康寿命の延伸に貢献できる研究です。
みなさんの温かいご支援を心よりお待ちしています。
本研究にご興味のある方は、私たちの研究室サイトをご覧ください。
https://neurophysiol.w3.kanazawa-u.ac.jp/