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ライフサイエンス

薬剤耐性菌の伝播を防ぐ!UV-C照射を活用したあたらしい環境消毒技術の探求

北谷 栞 特任助教 キタヤ シオリ
所属
金沢大学 感染制御部
研究分野
感染症内科学
キーワード
臨床感染症学、感染制御学、臨床微生物学

新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症や、深刻化している薬剤耐性問題など、日本の医療現場では感染対策上の多くの課題を抱えています。感染症の脅威は時代とともに変化しており、診断や治療に加えて、感染がどのように拡がるのか、また感染をどのように予防するのかといった疫学や感染制御に関する知識と対応が欠かせません。さらに、感染症は地域をこえて拡がる特徴を持っており、病院や社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。こうした背景から、感染を制御するための取り組みの重要性は、これまでになく高まっています。

このような背景を踏まえ、本研究では、金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の診察室において、環境表面における薬剤耐性菌の汚染状況およびUV-C照射装置の殺菌効果に関するデータを構築し、同科における感染管理対策の強化を図るとともに、その成果を病院全体へと波及させることを目指しています。


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北谷 栞 特任助教 キタヤ シオリ
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研究内容

感染制御と疫学的視点の重要性の高まり

新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症や、深刻化している薬剤耐性問題など、日本の医療現場では感染対策上の多くの課題を抱えています。感染症の脅威は時代とともに変化しており、診断や治療に加えて、感染がどのように拡がるのか、また感染をどのように予防するのかといった疫学や感染制御に関する知識と対応が欠かせません。さらに、感染症は地域をこえて拡がる特徴を持っており、病院や社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。こうした背景から、感染を制御するための取り組みの重要性は、これまでになく高まっています。

このような背景を踏まえ、本研究では、金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の診察室において、環境表面における薬剤耐性菌の汚染状況およびUV-C照射装置の殺菌効果に関するデータを構築し、同科における感染管理対策の強化を図るとともに、その成果を病院全体へと波及させることを目指しています。

感染症の特性と感染制御の重要性

感染症は特定の臓器に限らず、あらゆる診療領域で遭遇しうる疾患であり、診断や治療に加えて、予防や疫学に関する知識が求められます。さらに、薬剤耐性菌や新興・再興感染症などの病原体は進化・多様化しており、その拡がり方や重症化のしやすさは、免疫力や基礎疾患といった要因にも左右されます。感染症は個人の問題にとどまらず、医療施設や社会全体へと拡大する可能性があるため、感染制御に関する知識および実践が不可欠です。加えて、感染症はグローバル化・ボーダレス化しており、世界規模での対策がこれまで以上に重要となっています。

診察室環境に潜む薬剤耐性菌とその伝播の可能性

環境中の高頻度接触面では、薬剤耐性菌が長期間生存しやすく、医療関連感染症の原因となることがあります。耳鼻咽喉科・頭頸部外科の診察では、診療ユニットを使用し、患者様に直接触れながら診察を行います。さらに、喉頭ファイバースコープ検査や気管孔周りの処置、術後の傷口の処置など、飛沫が出やすい処置が日常的に行われています。このような診察や処置中に、診療ユニットや医療スタッフの手指に薬剤耐性菌が付着し、他の医療従事者や患者様に伝播するリスクが懸念されています。実際に、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の診察室で行った環境調査では、床や手洗いシンク、リハビリ用のおもちゃから複数の多剤耐性菌が検出され、環境が薬剤耐性菌で汚染されていることがわかりました。

新しい環境消毒法:UV-C照射とその殺菌効果

医療施設における感染対策では、手指衛生に加え、化学薬品を用いた環境表面の用手清掃が主に行われています。しかし、この用手清掃は実施する人によって精度にばらつきが生じ、不完全な清掃となる可能性が指摘されています。近年では、従来の用手清掃を補う方法として、UV-C照射や過酸化水素蒸気システムなどの非接触型消毒法が導入されてきています。特にUV-C装置は、空調を停止させる必要がなく、残留物を生じないといった利点を持ち、環境表面の薬剤耐性菌を短時間で大幅に減少させる効果が確認されています。

本研究では、金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の診察室において、環境表面のサンプリングおよび菌の培養を行い、存在する薬剤耐性菌の種類、分布、存在量を明らかにします。また、UV-C照射装置(SEPALIGHT、SARAYA)を使用して、診察室内の薬剤耐性菌に対する殺菌効果を検証します。さらに、UV-C照射装置の使用前に診察を受けた患者様から検出された薬剤耐性菌と、環境中から分離された薬剤耐性菌との関連性を検討し、患者様と環境の間で薬剤耐性菌が伝播する可能性を探ります。これにより、耳鼻咽喉科・頭頸部外科における感染管理対策の強化を図るとともに、得られた成果を病院全体へと波及させ、院内全体の感染管理水準の向上を目指します。