研究内容
「健康は、健全な筋に宿る」ミトコンドリアの健康を追究し、全身の健康を導く。
生命を維持する、細胞の精巧な仕組み
ミトコンドリアというと、「私たちのからだの細胞の中にあると聞いた記憶があるけれど、そこでどんな機能を担っているはよくわからない…」という方が多いのではないでしょうか。
ミトコンドリアは、ほぼすべての細胞の中にある小器官で、細胞が活動するために必要なエネルギーを生み出す、人体の「エネルギー工場」ともいえる重要な働きを担っています。
ミトコンドリアは細胞内で融合分裂を繰り返し、恒常性を維持します。損傷したミトコンドリアが蓄積すると細胞に悪影響を及ぼすため、損傷したミトコンドリアを選択的に除去する機構も働いています。生命を維持するための精巧なシステムが機能しているのです。
ミトコンドリアを増やせ!
ミトコンドリアは大きな筋肉に数多く存在しており、運動やトレーニングによって増加します。ミトコンドリアが増加すると、細胞は酸素を取り込みながら効率的にエネルギーを作り出すことができるようになります。自動車にたとえるなら「燃費が良い」状態です。一方で、運動量の低下や加齢によってミトコンドリアの数や働きが低下すると、疲労耐性が低下して疲れやすくなるほか、肝疾患や心疾患を引き起こすといわれています。
私たちが健康でいるためには、運動や食事などの生活習慣を通じて、とりわけ骨格筋のミトコンドリアの機能を向上させることが重要になります。同時に科学の視点では、ミトコンドリアに関連するタンパク質と、それらの機能を理解することが求められます。
私たちの研究室では、「健康は、健全な筋に宿る」をモットーに、生活習慣に対する筋の適応の仕組みを細胞レベルで紐解く研究に取り組んでいます。

ミトコンドリアの機能を左右するタンパク質を探索
正常に機能するミトコンドリアを維持するためには、ミトコンドリアの外から内部に2000~3000種類のタンパク質を輸送する必要があります。ミトコンドリアには“搬入口”があり、内部に入るタンパク質を厳しくコントロールしています。
私たちはこれまでの研究で、心筋や骨格筋の細胞にしか存在しないタンパク質であるミオグロビンが、ミトコンドリア内部にも局在し、ミトコンドリアの呼吸機能を向上させていることを発見しました。本来はミトコンドリア内部に入れないはずのミオグロビンが、どうやって入り込み、どんな役割を担っているのか。ミオグロビンとミトコンドリアの間にどんな相互作用が起きているのか。引き続き、複雑なメカニズムの探索、解明に挑戦しています。
他にもミトコンドリアの機能や代謝に影響をもたらすタンパク質が存在する可能性もあります。良い影響ではなく、悪い影響を与えているケースもあるかもしれません。研究のタネは尽きません。
細胞の健康から、全身の健康へ
私は小学生の頃からサッカーに打ち込んでいました。進学した筑波大学の蹴球部も大学サッカー界の名門です。運動生理学を学び、卒業後は教員になろうと考えていたのですが、人生に迷い始め、イギリスのリバプール・ポリテクニック(現リバプール・ジョンムーア大学)のスポーツ学科に一年間留学し、研究者になることを決めました。サッカーに特化したかたちでスポーツ科学を学ぶのが留学先の特徴で、エヴァートンFCの選手のリハビリを担当するという貴重な経験もできました。
運動はするのも楽しいものですが、研究するのも楽しいものです。研究の魅力は、疑問が尽きないこと。次々と出てくる課題を追いかけるのは大変ではありますが、分析し、実験して、一つひとつクリアしていく面白さに満ちています。
健康増進や疾病予防に貢献するやりがいも感じています。白山市の「あたまとからだの健康増進事業」や、石川県主催のイベント「いしかわ健康増進キャラバン」 など自治体の事業に協力するほか、地元の酒蔵と共同研究を行い、ミトコンドリアに着目した健康飲料を開発した事例もあります。
ミトコンドリアと細胞の健康は、臓器の健康に、そして全身の健康につながっています。