研究内容
脂肪性肝疾患の病態解明と治療法の開発
現代の国民病である肥満や脂肪肝の克服を目指して研究に取り組んでいます。本研究には、2つの柱があります。 1つ目は「食による予防」です。野菜などに含まれる機能性成分の解析や、体内時計を考慮した食事法(時間栄養学)によって、どのように肥満や肝臓の炎症を防げるかを解明しています。
2つ目は「治療薬の探索」です。これまで脂肪肝に炎症が生じて肝炎となるメカニズムを研究してきました。その知見を基に、すでに他の病気で使われている薬から有効なものを探す「ドラッグ・リポジショニング」を行い、肥満と肝炎を根本から改善する治療薬の実用化を目指しています。
偶然見つけた「脂肪肝炎マウスモデル」が、はじまり
約20年前、大学院生の頃、栄養成分の偏った食事をマウスに与え続けたところ、肝臓が大きく硬く腫れ上がり、ヒトの脂肪肝炎とよく似た状態になることを偶然に見つけました。
当時、医療現場では脂肪肝から進行する肝炎(脂肪肝炎)が注目され始めた時期でした。私たちの研究グループは、これを世界に先駆けて「脂肪肝炎マウスモデル」として発表しました。このモデルは現在も、病気のメカニズムの解明や薬の効き目を評価するツールとして、多くの研究者に利用されており、大きな手応えを得ました。
脂肪肝は誰もがなり得る病気です。現在、日本では脂肪肝の方が約2,000万人、そのうち約300万人以上が脂肪肝炎であると推定されています。私も健康診断で「肝臓の値(ALT)が高め」と指摘されることがあります。脂肪肝炎は放置すると肝硬変・肝がんへと進行する可能性があるため、治療薬の開発は極めて重要で、実用化を目指して研究を続けています。
心身の健康を支え、誰もが自分らしく生活できる社会の実現を目指す
幸せな生活を送るためには、何よりも心身の健康が重要です。土台となります。しかし、 時間的、経済的な制約や、様々なストレスにさらされる現代社会において、健康を維持することは決して容易なことではありません。
その中で、毎日の「食事」は、健康を支えるための重要な要素の一つです。私は肝臓の研究を通じて、「食による健康維持(機能性食品や時間栄養学)」と「安全な治療薬」について、科学的根拠を明らかにしたいと考えています。これらの研究成果を社会へとつなげ、健康への不安が少しでも和らぎ、誰もが自分の目標ややりがいに向かって、前向きに生活できる社会の実現に貢献していきたいと考えています。
生体調節の精密さと精巧さ、科学の尽きることのない面白さが原動力
粘り強く研究を続けていると、ごく稀に(年に数回ほど?)、自分の予想とはまったく異なる実験結果に出会うことがあります。 振り返ってみると、「予想外の結果」が新たな発見となり、論文発表へとつながった経験も少なくありません。
基礎研究に携わる中で、生体調節の精密さや精巧さに驚かされると同時に、科学の奥深く尽きることのない面白さを実感しています。
また、大学には倍ほど歳の離れた学生たちがいます。彼らと同じ研究の場で、対等に議論しながら研究を進められることに、大きな楽しさを感じています。さらに、そうした中で学生たちが成長していく姿を見られるのも、私の何よりの楽しみです。これらが私が大学で研究を続けている原動力となっています。
脂肪性肝疾患の病態解明と治療法の開発を目指す
当研究室では、創薬シーズの探索ならびに医薬品の適正使用のために、次の基礎・臨床研究を中心に行っています。
1)体内時計障害による生活習慣病発症機序の解明と体内時計制御薬の開発
私たちの体のほとんどの細胞には時計遺伝子群で構成される体内時計が備わっており、この体内時計が24時間の時を刻むことにより、様々な生理機能の恒常性を維持しています。近年、体内時計の障害は、2型糖尿病、高血圧、癌などのいわゆる生活習慣病の発症につながることが、私たちを含めた多くのグループの研究により明らかになってきました。現代は24時間社会となっており、体内時計障害は生活習慣病の急増の一因であると考えられます。そこで私たちは、体内時計障害が生活習慣病を惹起する機序を解明し、生活習慣病の予防・治療に有用な体内時計制御薬を開発することを目指します。
2)非アルコール性脂肪肝炎の発症機構の解明と治療薬の開発
肝臓は生体の糖・脂質代謝において中心的な役割を果たしています。近年、肝臓におけるインスリン抵抗性は肥満や2型糖尿病などの生活習慣病だけでなく、脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis: NASH)、および肝がん等、様々な病態の基盤となることが明らかになってきました。私たちは肝臓におけるインスリンシグナル伝達を制御する鍵分子としてタンパク質チロシンフォスファターゼ(Protein tyrosine phosphatase: PTP)に注目しています。現在、遺伝子改変マウスを用いて糖・脂質代謝、肝臓における炎症と肝発がんにおけるPTPの役割を解析しています。
3)時間薬理学研究
一般的に、薬の体内動態や感受性には日内リズムが認められるため、薬の有効性や安全性は投与時刻によって変化します。そこで、薬の有用性を向上させるために、日内リズムをもたらす分子機序を解明するとともに、それぞれの薬にとっての最適な投与時刻を明らかにします。
4)その他の薬理学研究
その他、様々な病態や医薬品に関する基礎・臨床研究を実施しています。
皆様からのご支援は、研究に必要な機器や試薬の購入、次世代を担う学生たちの育成に活用させていただきます。
健康な未来を共に創るため、温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。