研究内容
寄生虫は必要だったかもしれない
ヒトは寄生虫と共にその進化史を歩んできました。
しかし現代の清潔環境では、寄生虫がほぼ消失しています。
これは、私たちの免疫系にとって再適応を迫られる新たな環境とも言えます。
しかも、先進国において寄生虫感染症が撲滅されたのは、わずか1世代前です。
我々の免疫系はこの新たな環境への再適応の過程にあり、アレルギーや自己免疫疾患の増加は、その混乱の帰結として理解することが可能です。
実際、インドネシアやケニアでのフィールド研究ではアレルギーの頻度は低く、一方、原虫を保有していても健康な人々が多数存在します。
これらの観察は、「清潔=健康」という単純な図式では説明できず、ヒトと寄生虫の共存関係が健康維持に関与している可能性を示唆しています。
腸内原虫フローラという新しい概念
従来の寄生原虫の研究においては、個々の病原性原虫を対象とした遺伝子検出および分類構築が主であり、非病原性原虫はほとんど注目されてきませんでした。
これに対し私たちは、寄生虫が広く存在する途上国の学童を対象とした分子疫学調査を通じて、糞便中に存在する多様な原虫を網羅的に検出する遺伝子解析技術を確立してきました。
すなわち、原虫を個別の寄生体としてではなく、腸内に存在する一つの生態系(原虫フローラ)として捉える視点です。
本研究では、「原虫フローラ」という概念に基づき、宿主との相互作用の解明を進め、ヒトと寄生虫の共存関係において、本来、寄生虫が担っていた可能性のある免疫調節機能を明らかにします。
臨床と基礎をつなぐ研究へ
本研究は、基礎的な生物学的興味にとどまらず、感染症制御や新たな医療戦略の構築につながる可能性を有しています。
将来的には、腸内原虫の構成を指標とした健康評価法の確立や、原虫を利用した新たな治療法の開発といった応用も視野に入れています。
具体的には、治療に使用する腸管寄生原虫の候補を絞り込み、糞便移植・経口囊子投与などによるアレルギー・自己免疫疾患治療への応用を目指しています。
未来へ:見えない生態系を解き明かす
私たちは、非病原性として見過ごされてきた寄生虫に着目し、
遺伝子解析とフィールド研究を融合することで、腸内微生物研究に新たな領域を切り拓いてきました。
腸内原虫フローラという概念は、ヒトと微生物の関係を再定義するものであり、
その理解は人の健康を支える微生物群の役割を根本から問い直すことにつながると考えています。
寄付のお願い
病原体との戦いを主戦場とする感染症の関連学会では、非病原性の原虫の研究には理解がなかなか得られません。このため、正直に申しまして、研究推進の糧となる研究費の獲得に苦心しています。iDonateによる皆さまのご支援を活かし、この研究を一歩でも前に進めてまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。